昔話⑷
昼間に車で線路に差し掛かった時だった。
「あのお母さん、
小さい子と死のうとしてる」と輪々華が言った。自死念慮は改めれば出ていた。だが助ける事は出来ない。突如近付き鑑定を、申し出る訳にも行かぬ。彼女が気付いて祈っていたからして、助かるだろう。そこ迄は普段はやらないがこの時は、聖人面して祈っておいた。
同じ事を昔の輪々華にしてやったのだが、忘れている。
死ぬという様な積極性ある行動ではない、それでは死なない事も互いに分かっていた。
高校の屋上のフェンスを乗り越えて柵から手を離す、落下に向かう直前にまた柵を掴むという遊びを彼女はしていた。柵から手を離し背から倒れて行く、また柵を掴むの繰り返し。
見ていた。事故にならないと知っていたからである。
知ってはいたのだがその行為をする事が、問題だった。自傷自損行為。目の前でやるのだ。お前は大事でないと言われているのと同じ事である。自己を軽んじる事は相手をも軽んじる。
初めは怒りを感じた。二回目からは悲哀。三回目も怒り。
全力で全身全霊で祈っていた事を知っていたに違いない。
「祈っていてね」「多嘉良の愛を確かめる」「今日死なないなら今日は愛が通じた」「明日はわからない、明日は変わるかもしれない」「私は要らないかもしれない、要るか確かめる」これらの事は言われた。真剣に言っている時もあれば笑っている時もあれば、泣いている時もあった。
こちらも真剣だった。何を伝えても満足せず信じない。嫌気が差した事もあるが頭から、どうやっても離れなかった。
試されねばならない程度だったか、彼女にとっては試さねばならない程度だったであろうか。